B.L.275……世界は光と闇の二つの勢力に分かれ、その覇権を争った。相容れる事の無い白と黒が世界を覆い、大地は紅い色を纏う。光と闇の双方で、多くの命が、文明が崩れ去っていく。人間、亜人、妖精、天使と悪魔、そして魔物までも、終わりの見えない戦いの中でその目的を失い、いつしか争いこそが世の全てとなった。



 B.L.1……天使の女が悪魔の男を剣で貫いた時、悪魔の男もまた天使の女を鎌で裂いた。二人は倒れ込み、ようやく終わる自らの戦いの運命を嘆き、しかし今から訪れる終焉の平穏を喜んだ。

『これで、わたしも……貴方も解放される』
『恨みはしないのか?』
『お互い様でしょう?』

 自らの命を絶ち切った互いの手を取り合い、二人は目を閉じた。その時、天使の光と悪魔の闇が空へと舞い昇り、それが一つとなった時、世界に住むあらゆる命は『――』を見た。



  *



 A.L.1324……アルモニア大陸中部、ブルーヘイム。過去の戦乱においては光の地の前線であったと言う、その街も今となっては平和そのもの、のはず。かつては闇の勢力であった悪魔が大通りで店を出しているほどだ。そんな中、それが似合わない男達が飛びかかる。

「その首貰ったあぁぁぁぁっ!」
 一人の男に容赦無く振り下ろされる大槌。しかしそれは人では無く道の舗装を砕くに留まる。
「誰だお前」
 男は大剣を鞘から取り出す事無く大槌も持ち手を殴りつける。振り下ろされていた大槌は地面にめり込み、愚かにもそれを離そうとしなかったオークは呆気無く吹き飛ばされてしまう。受け身を取り立ち上がるも、武器を失ったオークは不意打ちを仕掛けたその瞬間と比較するならば明らかに……いや、絶望的なほどに状況が悪くなっていた。
「くそっ、ロア……貴様、次は無いぞ!」
 そこまで馬鹿では無い――オークは急ぎ逃げ出すが、途端、その眼前から巨大な黒球が飛び出した。
「うっ!? おおおおお!?」
 哀れオークは闇の球にも吹き飛ばされ、再び大剣を持つ男……ロアの目の前に戻されてしまう。今度は立ち上がる前に腕を掴まれ、荷物から取り出したロープで腕を縛られてしまう。強靭な腕があっさりと動かなくなる――魔法金属「エンジェライト」のワイヤーを仕込んだ縄は、オークの馬鹿力でも千切れる事は無かった。
「畜生! 覚えてやがれ……ロア! アテル!!」
 ロア、そして通りの向こうから現れたもう一人の青年、アテルへの呪詛を吐くも、ロアはそれを無視してオークを街の警察に突き出した。かくして、彼らの平和は守られたのである。

「他人の宝が欲しければ奪い取れ。トレジャーハンター裏の鉄則、しかし」
 身動きとれぬオークに言い放つ。
「慎重になれ。トレジャーハンターの基本」



  *



「お疲れ様です、アテル、ロア」
 白い羽が優雅に揺れる――白いゴシックな雰囲気のドレスに身を包む少女が笑顔で二人を迎えた。頭上の輪がキラキラと輝く。
「本当、疲れたなあ」
 アテルは街に戻ってすぐに襲われた――相棒が――そのために尚更多くの疲れを溜めてしまった。本来ならばすぐに休みたかった。そう思うとあのオークは許し難い。一方のロアは余裕があるのか微塵の疲れも見せない。
「俺は今から少し散歩にでも出ようと思う。アテルは行くか?」
「行かないよ、というか行く訳無いだろって。風呂入って休むよ」
「まだ昼なのにか?」
 まだ人が眠るには早すぎる時間、しかしアテルからすればもう、実に30時間は起きてから経過しただろうか。街の近場にある遺跡を調べるだけで時間を使いすぎていた。もう一刻も早く休みたかったのである。
「もう眠くて仕方ないんだ、今なら吸血鬼より寝れそうだよ」
 それを聞くとロアは笑いながら出て行ってしまった。どれだけ体力が余ってるんだ、そんな疑問を抱くような時期は遥か前に過ぎている。昔から体力も、その他の身体能力も優れていた。
「それじゃあクルクス……風呂行って来るから」
「あ、わたしが着替え持っていくからいいよ」
「んー、じゃあ頼んだ」



 かつての光と闇の戦乱から時は流れ、世界は復興していった。しかし、大陸の各地には過去の歴史を物語る遺跡や、人知を超える存在が宝を遺したという未踏の地が存在していた。
 遺産を、財宝を求め多くの危険をも超える勇敢なる冒険者、トレジャーハンター達はこの地を駆け回る。


 そして、アテル、ロア、クルクスの三人――トレジャーハンター「ブラック・ハウリング」もまた、未知の神秘に思いを馳せ、世界を巡っている。そして、目指す未来を想い、今日……の行動は終わったため、明日を駆け抜けてゆくのだ。

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