自称天使の自称姉
  即興小説 〜10/14 名コミ後にて〜
  ※TS(性別の変化)要素有りのため注意
 

 何も許せない。全てが許さない。逃げたい、逃げて逃げていなくなりたい。これ以上、生きていたくはない。だから、消えてしまおう。縄を目の前にしたとき、他の人ならどう思うのだろう。私は何も感じられない。つまり、死ぬべき時は今。そんな理論が通じるかは分からないけれど、これ以上考える必要も無かった。縄が肌に触れる感覚もどうでもいい。空を飛ぶような感覚。足が地を離れて・・・・・・下に引っ張られ、上に吊り上げられ、そしてようやく、全てが終わってくれる。痛みもどうでもいい、これで解放されると思えばーー
 そう思ったのに。これでは詐欺ではないか。

「どうして死んじゃうんですか」
 涙ぐんだ女性を目の前にすると、戸惑う以外にできることが無い。もう考えなくてもいいはずなのに、どうして考えることができるだろう。この不条理な現実に。
「ようやく運命の人に出会えると思ったのに」
 何を言っているのか。目の前の女性は手と羽で顔を覆う。羽。羽、とは何か。ようやく気付く、目の前の異常性。死んだはずなのに意識がある今もおかしいけれど、この光景は更におかしい。
「誰」
 ようやく絞り出した一言には、一言で返される。
「私は貴方の守護天使です」

 早いです、酷いです、そんなことを言われても。目の前の自称守護天使は泣きじゃくるばかりで話が進まない。第一、守護天使なんてものがいるなら初めからこんなことにならないのでは。そう言おうと思えど、どうにもその気になれない。怒りをぶつけ難いにも程がある。
「私の名サポートを受ければ誰でも即復活、のはずだったんですよ! まさか先に死んじゃうなんて・・・・・・」
「んなこと言われてもさ」
「このままでは終われません!」
 ようやく言葉を絞ろうとしたが即追撃。どうも反論の余地を貰えない気がする。
「蘇らせるとかできませんけど、何が何でも幸せになって貰いますよ!」
 いつの間にか涙の止まった自称守護天使の唐突な宣言。段々どうでもよくなってきて、再び考えることをやめようとしてーー
「そうです! 人として復活させられなくても、私の力を分けてしまえば!」
 瞳を閉じて、闇の中。聞こえた言葉、何故か暖かくなってきた身体・・・・・・死んだはずなのに。無心を貫け、気にするな、幻聴だ、俺は死んだ、そう思おうと努めるそれはつまり、死が遠いということ。人間としては死んだが、消えるのはまだ先だということ。暖かい感覚が強まるにつれて、考えないことができなくなっていく。残っていた感覚が変わっていく。背から何かが出てくる、気がする。何かが消えて何かが膨らんでくる、気がする。何か・・・・・・ふわふわしてきた、気がする。その中でようやく、意識を手放すことが許された。

 ようやく消えることができた。いや、どうしてそんなことを考えられる。おかしい、どうして、そして。
「よく眠れましたか」
「ぁ・・・・・・れ?」
 頭上から聞こえる声で目を覚ます。
「やっぱりこれがいいんですね。調べたかいがありました」
 そこで初めて、自分が横たわっていることに気付く。どこで。何か柔らかいものの上で。どうして。分からない。ここからどうする。どうしようか。
「どうです、私の膝枕。癒しでしょう?」
 そしてようやく理解する、何者かの膝枕。あの女性の膝枕。
「何だよこ・・・・・・れ」
 状況に違和感、加えて自分に違和感。そうだ、死んだはずだ。なのに生きて膝枕をされている現在。それだけじゃない、妙に高い声が聞こえる。一つじゃない、二つ。あー、あー、と適当に言ってみる。ああ、おかしい。自分の声が妙に高いし、語りかけてくる声にも似ている。
「どうしました?」
「どうしたじゃなくて、どうなってーー」
 パチリ、目の前に映る光景。膝枕をする女性、羽の生えた誰か、笑顔の自称守護天使。膝枕をされる少女、羽の生えた誰か、驚愕を浮かべる見覚えのない天使。
「う、うわあ!?」
「きゃっ」
 飛び起きると、少女が飛び起きる。ああそうか、これは鏡だ。そうやって一瞬だけ冷静になって。直後、冷静さが吹き飛んだ。
「何だこれ! おい!」
「何がって、膝枕ですって。もっと休んでいてもいいんですよ」
「違う! これ!」
 右手で自分、左手で鏡。指差した先の不整合。よく似た二つの声が会話する。
「あー、それですけど」
 ちょっとだけ申し訳なさそうな、小さな声が耳に響く。
「私の力を注いだので、私になっちゃいました。ちょっとちっちゃいですけど」
 言われてみれば、二人の天使は似ている。髪や瞳の色、顔つき、声、すべすべの肌に白い羽。まったく同じ周期で明暗が変わる光の輪。逆に背丈は違う、体格が違う、胸の大きさも違う。それはよく似た姉妹だ、普通に考えれば。はっとして胸を触る。少しある。下を探る。そこには無い。背中に触れれば、柔らかい羽に触り触られ。
「でもこれで大丈夫。これから貴方の守護天使、いえ、貴女のお姉ちゃんが幸せにしてあげますから! 可愛い妹のため! 頑張りますね!」
 自称守護天使、いや自称お姉ちゃんは決意を固め。
「・・・・・・へえ」
 俺はただ、少し前までの絶望が嘘のようにふぬけた声で適当な返事を返していた。これが、第二の人生・・・・・・らしきものの始まりである。



まさか即興小説することになるとは思いませんでした。
pixivに上げるには短いためサイトに載せておきます。

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